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議会(二院制の場合は議院)では法案、議事運営などさまざまな場合に議決を行います。 通常はその際に数の多いほうの意見が議会の決定したこととして、外部に通知されます。 しかし、もし議決の際に可否同数となった場合はどうなるのでしょうか。 イギリス議会を例に考えてみます。イギリス議会(庶民院)においては可否同数となったとき 議長は表決権を行使する代わりに決裁権を行使します。表決権とは議員が賛成か 反対の票を投じるもしくは棄権をするという行為をなす権利のことです。 庶民院では議長は政治的中立性を保つために表決権を行使することはありません。 しかしそれでは可否同数の場合に決着がつかなくなってしまいます。
そのとき、議長は決裁権を行使します。つまり、議長権限でどちらにするか決めるのです。 この際に議長は他の議員と同様に、自己の良心に従い好きなほうに決めることができます。 ですが実際には先ほど述べたように議長は政治的中立性を損なわないような行動をします。 そのため議長の決定が議院の最終決定とならないような判断を下すのです。 すなわち
議長の投票が現状を変更することになる場合、議長は「否」の決裁を行います。 議長の投票が審議を打ち切ることになる場合、議長は審議継続に「可」の決裁を行います。
このような態度によって議長は不偏不党、政治的中立性を示すことができます。
今見てきたのはイギリス庶民院についてです。これが貴族院になるとまた異なってきます。 貴族院では議長は他の議員と同様に討論に加わり、表決にも参加します。 その代わりに貴族院議長は決裁権を持ちません。貴族院では議長は中立であるという 慣習は存在しないのです。
それでは可否同数の場合はどうするのでしょうか。 可否同数の場合、法諺を援用します。 それは「可否同数のときは常に否定者側に理ありと推定される。」という言葉です。 そして貴族院では
1 法律案・従位立法についてはこれを過半数で否決できない、 もしくは修正案に過半数の賛成が得られない場合 (つまり可否同数では否決できないし、賛成も得られていない)、 これらは原案通り通過させることとなる。 2 その他の動議は過半数が得られなければすべて否決される。
このように庶民院と貴族院では議長が決裁権を行使するかしないかの違いはありますが、 基本的には可否同数となった場合、これは現状維持の方向に決定されます。
では日本においてはどうでしょうか。日本では日本国憲法時代の参議院・衆議院の 本会議で表決の際に可否同数となったのは1度だけです。 1975年7月4日の政治資金規正法改正案を参議院で議決する際に可否同数になりました。 日本では衆議院でも参議院でも議長に対して決裁権を認めています。 それではこのときの参議院議長はどのような判断を下したでしょうか。
このときの参議院議長は河野謙三でしたが、彼はこの法案を可決してしまいました。 この判断は法的にはなんら問題はありません。しかしこの判断はいかがなものでしょうか。 イギリス庶民院のように本来議長は政治的には中立を要求されるものだと考えられます。 その上でこの場合イギリスのように議長は最終決定とならないように、現状を維持するように すべきではないかと考えます。
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